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岨中健太さん  トラスト・ベースド・フィランソロピーの実践で、社会インパクト創出に新たな風を



プロフィール

岨中 健太(そわなか けんた)
一般財団法人みてね基金 理事

2020年4月の「みてね基金」開始時より参画。助成プログラムを通じてNPOへの資金的支援を行うとともに、ネットベンチャーやメガベンチャーでの事業開発・組織マネジメントの経験を活かした伴走支援を行っている。2025年4月の一般財団法人みてね基金設立に伴い、理事に就任。トラスト・ベースド・フィランソロピーの考え方に基づき、助成先団体との信頼関係を重視している。「みてね基金」のミッションであるすべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して、助成先団体にとって使いやすく、活動しやすい支援のあり方を追求した助成プログラムの開発と実践に取り組んでいる。


一般財団法人みてね基金

株式会社MIXIが提供する子どもの動画・写真共有アプリ「家族アルバム みてね」の創業者である株式会社MIXI取締役ファウンダー・笠原健治の個人資金で、2020年4月に始まった「みてね基金」。設立時から「NPO法人ETIC.(エティック)」(以下”ETIC.”)と共同運営している。活動開始から5周年を迎える2025年4月に、今後の更なる活動の発展を目指し、「一般財団法人みてね基金」を設立。「すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界」を目指すことをミッションに、子どもと家族を支えるための活動に焦点を当て、活動領域を限定せず、支援を必要とする非営利団体を幅広くサポートしている。

「一般財団法人みてね基金」は助成先団体ファーストでフレキシブルな支援を行うことで、助成先団体からも非常に好評です。活動の基盤には「トラスト・ベースド・フィランソロピー(信頼に基づく慈善運動)」の思想があり、キャピタリズムに縛られない社会インパクトの創出を非営利セクターと共に目指しています。「みてね基金」の事務局、財団理事として運営に携わる岨中健太さんに、お話を伺いました。

岨中さんが「みてね基金」に関わることになったきっかけを教えてください。

― 経済合理性から自由な状態で、社会インパクトを出すことに興味があったから

私は以前から非営利の活動、ソーシャルセクターに関心を持っていました。例えば、無料のオンライン学習で世界中の教育機会を作っている「カーン・アカデミー」が多額の寄付によって運営されていたことを知った当時、「こんな世界があるのか」と驚きました。その後もソーシャルセクター関連の書籍を読んだり、イベントに参加したりなどを続け、経済合理性から自由な状態、ビジネスセクターとは異なる論理や方法、非営利活動による社会的インパクトそのものにも興味を持つようになりました。そういった中で、笠原から「一緒に『みてね基金』をやってみないか?」と誘われた時、二つ返事で引き受けました。

「一般財団法人みてね基金」は、助成先団体ファーストでフレキシブルな支援体制を採用しています。この設計に至った背景には、どのような想いがあったのでしょうか?

「みてね基金」もしくは笠原にしかできないことを考えた時に、自分たちならではの特徴を活かしたかった

まず、大きな特徴の一つである「トラスト・ベースド・フィランソロピー」*は、ETIC.との議論で、「みてね基金」で大事にしているのは信頼だ、という共通認識があり、海外の取り組み事例として出てきました。「みてね基金」の資金の出し手である笠原自身の特徴でもあるのですが、役職や年齢問わず、常に相手を信頼したコミュニケーションや意思決定をしてくれます。なので、信頼をベースにすることが「みてね基金」にも非常に合っていました。

次に、(助成金の使い道の)自由度が高く「変えること」を前提とした助成の形であることも特徴の一つです。ビジネスの世界では、「変えること」や「失敗すること」が当たり前であり、ゴールを見据えてどのように進んでいくのかを常に選択していきますよね。その考え方をそのまま「みてね基金」に持ち込んだ感覚です。「計画通りにやる」よりも「柔軟に変えていく」方が将来的なアウトカムや大きなインパクトにつながるのではと思ったからです。変更やチャレンジには失敗がつきものですし、その失敗も許容しなければ変更やチャレンジができないので、このような柔軟性のあるプログラムになっています。

一方で、自由度が高いからこそ、短期的な取り組みよりも本質的な取り組みを重視するようになるので、もしかすると「みてね基金」は助成先団体の方々に非常に厳しいことを言っているのかもしれません。ただ、これまで取り組めなかった、取り組みたいと思っていた本質的な課題に向き合うことに「みてね基金」の資金をつかっていただきたいと考えているので、このようなスタンスや考え方に合う団体と一緒にやっていきたいです。

*トラスト・ベースド・フィランソロピー:
直訳すると「信頼に基づくフィランソロピー」。資金提供者が支援先を「信じる」ことで、従来の管理型支援とは異なる関係構築のあり方を試みる方法。「現場のことは現場が一番よく知っている」という前提のもと、必要以上に支援先に指示や制限を加えず、信頼をもって資源を託します。しかしながら、「手放しの自由」にならないように、最初の(支援先)選定段階で丁寧な見極めが求められます。

「トラストベース」を実践するために、何か工夫していることはありますか?

― 会話の幅を意識しつつ、普段から相手を信頼してフラットに話すこと

対話の仕方の面で言うと、なるべく視点を遠くに置き、助成先団体の方々とお話をするようにしています。私個人としては、一旦極端なところに話を振りながら、少しずつ本題や本筋に寄せていくことをよくやりますね。話に振り幅を持たせると、議論が固まりにくくなったり、新たな気づきがあったりします。極端なことを言うと「そういうことも言ってよい場なんだ」という雰囲気にもなりますよ(笑)

また、トラストベースに基づき、助成先団体の方々が本音で話しやすい状況をつくれるように、ソーシャルセクターとビジネスセクターの両方の考え方を混ぜながらフラットに話すように意識しています。「いろんな意見を持っていて良いし、発言して良い」という環境が醸成されていることが、助成先団体の方々と本音で話す際に大事なことなのかもしれませんね。

これまでの支援活動の中で、特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

― (相手の)覚悟を知ったことで、より「信頼」を大事にして向き合うことができた

「みてね基金」では、助成先団体と同じ目線に立ち、信頼することを大事にしています。双方が信頼し合えている関係性の中だと腹を割って話せるので、本質的な話し合いができると思っています。

心からそう考えるに至ったのは、ある助成先団体の代表の「覚悟」を聞いたのがきっかけです。その団体の伴走支援をする中で「何をするのかを決めないと、この団体が成長しなくなるのではないか」というところまで来ていたので、「どうするのかを選んだ方がいいのでは」と問いかけたのですが、返事は「全部やります」でした。その言葉に心からの覚悟を素直に感じましたし、現場で苦労されながら活動されている方に選択を迫ること自体が野暮だったなと反省しました。改めて覚悟を聞けたことで、「助成先団体の皆さんはきっと同じなんだ」と私自身の決意も新たになり、これまでよりも助成先団体の方々を信頼する気持ちで向き合えるようになりました。それに、覚悟を決めた後の人は、これまでとはステージが変わったかのように、行動やアウトプットが全然違うんです。ご本人の内発的動機付けがしっかりとできた状態であれば、もはや管理の必要はなくなります。

これまでの支援活動で、上手くいかなかったことやそこから得た気づきは何かありますか?

キャピタリズムの視点だけでは、見えてこない世界があることに気づいた

「みてね基金」を始めた最初の頃は、助成先団体の方々と話す時にビジネスセクターのロジックで話していたので、話が刺さっていないというか、反応がすごく悪かったような気がします。どうしても「相手の助けになる良いことを言わなきゃ」と思ってしまって、「優先順位をつけましょう」とか「やめることも正しい選択だ」とか、キャピタリズムをベースにした話し方をしていました。ビジネスや事業運営において「全部やる」というのは聞こえはいいですが、「計画性がないこと」として捉えられることもあります。特にインターネットのビジネス領域においては、小さくスタートし、小さな価値をどんどん研ぎ澄まし、かつ熱量の高い状態が保たれたまま多くのユーザーに広まっていくことが重要です。

あくまで私の経験上の話ではあるのですが、社会課題解決に向かうNPOの方々は、やらないことを決めない人の方が多い印象を持っています。「問題を見つけたら全部やります」という方が多いので、「やめずに、全部やるためにはどうするか」を起点に考えた方が、推進力を生んで結果的に特別な意味のある活動になり賛同者が増えていくという、この流れをイメージした上で話すのが重要だなと思いました。助成先団体の方々が「何をやりたいのか」「どこまで行きたいのか」をきちんとこちらが理解した上で、包括的に話をするべきだという心構えでいます。もちろん全てにおいてやめないことがいいわけではないですし、最後はご本人の意思次第だと思うのですが、一つの選択としてキャピタリズムに縛られない考え方を持っておくべきだと思います。

「みてね基金」の「フレキシブルな支援」によって、支援先にどのような良い変化が生まれましたか?具体的な事例があれば教えてください。

― オープンな関係性の中でフラットに話し合い、柔軟な姿勢で本質に向き合うことが大事

  「認定特定非営利活動法人はっぴぃmama応援団」  (以下”はっぴぃmama”)のケースですが、実は助成期間中に申請時の取り組みと実際の取り組みを大きく変更されました。伴走支援を始めてまもなくしてから、みてね基金事務局内で「はっぴぃmamaが本当にやりたいこと、やり続けたいことは申請事業と異なるのでは」という考えにいたり、正直にはっぴぃmamaにぶつけました。結果的に、新たな柱である「母子特化訪問看護ステーション」を立ち上げる事業変更を決断されたのですが、決めるまでのプロセスにおいて、はっぴぃmama全体で何度も何度も深く議論されたようです。事業変更の意思決定はあくまでもアウトプットの1つであって、意志のあるアクティビティが大事だと思います。訪問看護ステーション立ち上げを決めた後のはっぴぃmamaのみなさんの表情というか、やる気に満ちた雰囲気は今でも覚えています。ここからは訪問看護の事業領域に入りますし、専門家にも伴走支援に参加していただいていたので、正直なところ、私の出る幕はありませんでした(笑)でも、それでいいんだと思います。

助成期間が終了する頃、はっぴぃmamaが活動する新潟市で、はっぴぃmamaを後押しするような新たな行政の制度が始まるなど、地域に根ざした活動ならではのインパクトの芽が出てきていました。方向転換において大事なのは、なんのための組織基盤強化、事業基盤強化なのか、この取り組みはどこの何を目指すのか、を資金の出し手と受け手の双方でしっかりと認識することです。率直に課題を共有し、オープンな関係性の中で共に考え、最初に立てた計画に固執せず、状況の変化を見ながらフレキシブルに対応することが結果的に社会に与えるインパクトを大きくすることにも繋がるように思います。


新たに「継続助成」がスタートしましたが、どのような想いでこのプログラムをつくったのでしょうか?

ー 採択団体の更なる後押しをしたかったから

地域に密着した活動を行う団体の組織基盤の強化を支援するステップアップ助成、革新的な取り組みを支援するイノベーション助成の支援機会を通じて、「さらに支援したらより素晴らしい取り組みになるのに」、「支援期間終了後も支援を続けたい」という我々の想いを形にしました。継続助成は採択済み団体の更なる後押しを目的としているので、公募型ではなく指名型になります。支援内容は「助成期間」「助成額」「活動期間」「予算規模」の全てが都度決定する予定であり、支援先のあり方に応じたフレキシブルなものになると思います。

「継続助成」を行おうと思ったもう一つの理由が、2~3年の助成期間だと資金が続かずに活動の火が消えていってしまう、というケースがあったからです。我々は、2~3年ではなく10年後を大事にするシステムチェンジの「火付け役」として、その火に対してきちんと燃料を焚べ続ける、つまりインパクトが確立するまで資金を繋ぎ続けることが資金提供者の役割の一つでもあると思っています。

これから「継続助成」に取り組む中で、具体的に求められる支援の形はまだわからないのですが、助成先団体の皆さんと話していると、細かなコミュニケーションを通した心理的な伴走支援にとても価値を感じていただけているようなので、「継続助成」においても資金提供だけではない支援を期待されているのだろうなと感じています。

最後に、「一般財団法人みてね基金」、そして岨中さんご自身の、今後の展望とビジョンを教えてください。

ー トラスト・ベースド・フィランソロピーを普及したい/個人では、人と社会課題を結びつけて解決事例を生み出したい

日本では、まだトラスト・ベースド・フィランソロピーは浸透していないので、普及したいと思っていますし、フィランソロピストが資金提供する際にトラスト・ベースド・フィランソロピーが一つの選択肢として存在する状態までもっていきたいです。

私個人の展望としては、企業の中にいる様々なスペシャリティを持つ人材と社会課題を結びつけることをやりたいと思っています。実は既に少しだけ取り組んでいます。あるNPOから採用活動について相談がありました。しっかりと話をお伺いし、根本原因を見極めた上で、「この人だったら解決してくれるかもな」という方をご紹介し繋げました。その人は、月に一度程度の伴走支援をし続けたそうですが、結果的に良い人事制度が完成したそうです。「そうです」と言っているのは、私は最初のつなぎ部分だけ関わっていて、その後はまったく知らなかったんです。ずっと支援が続いていて、人事制度策定までたどり着いたことに本当に驚きましたし、うれしかったです。このように、人的資本と言われるスペシャリティを持つ方々が社会課題と結びつく事例が増えれば、NPOの皆さんが活用できる資本が増えていくと思うので、そういった事例を生み出す取り組みをやりたいです。

お話を伺って

今、特に海外を中心に、従来の管理型の支援スタイルに疑問を投げかける動きが広がっています。注目されているのが「Trust-Based Philanthropy(TBP)」という考え方です。直訳すれば「信頼に基づくフィランソロピー」。聞き慣れない言葉かもしれませんが、そこにあるのは「資金提供者は、どこまで支援先を『信じる』ことができるのか」という極めてシンプルで、人間的な問いかけです。

TBPの中心にあるのは、「現場のことは現場が一番よく知っている」という前提です。資金提供者はその前提を尊重し、必要以上に指示や制限を加えず、信頼をもって資源を託します。PA Inc.でも先日TBPに関するこちらの記事をポストしたので、詳細は記事をご覧下さい。
Trust-Based Philanthropyは、「資金提供者は善意の管理者である」という旧来の発想から一歩踏み出し、「支援とは関係性の構築である」と捉え直す試みです。完璧な支援モデルではないかもしれませんが、「信頼関係」をベースにするという行為にこそ、大きな変化の可能性が宿っています。
日本国内においては「フィッシュファミリー財団」と「みてね基金」がTBPを実践する資金提供者として代表的です。2025年5月に開催された、一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(Social Impact Management Initiative)主催のSIMIのイベントでもこの2団体がTBPをテーマにセッションをしました。
日本でもトラスト・ベースド・フィランソロピー協会が立ち上がりました。「信頼」を基本とした助成先と資金提供者の関係が、今後広がっていくことを期待します。

インタビュアー: Co-CEO 小柴優子




おまけ)みんなのお兄さん的存在な岨中さんと今回も楽しくお話しさせていただきました。

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