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エリック・ゴールデンさん 東京での炊き出しボランティアから、シエラレオネの冷却技術開発へ



プロフィール

Eric Golden(エリック・ゴールデン
Fortress Investment Group Japan共同創設者・共同代表マネージングディレクター

同社にて17年間にわたり不動産PE投資を牽引。米国非営利団体MEER(Mirrors for Earth's Energy Rebalancing)理事、認定NPO法人Room to Read Japan 理事として、教育・気候・医療分野でインパクト投資と寄付を実践。1999年ブラウン大学数理経済学専攻卒。

フィランソロピーには、ひとりの人が複数の分野に関わることもありますが、エリック・ゴールデンさんほど、幅広いテーマに本気で取り組む例はそう多くありません。

今回は、東京での早朝の炊き出しから、シエラレオネでの革新的な冷却技術のプロジェクトへとつながる、彼のフィランソロピーの軌跡と進化について伺いました。

フィランソロピーを始めた時のことを教えてください。

金融の激務の合間に食品配布。困っている人を助けなければならないことは、親から教えられました

23歳で日本に移り住んだとき、僕は金融業界で働き始めたばかりで、毎日が本当に忙しかったんです。でも、どこかで「自分にも何かできることがあるんじゃないか」と思っていて。そんなときに出会ったのが認定NPO法人「セカンドハーベスト・ジャパン」です。食料が必要な人たちに届ける活動に参加したのが、僕にとって最初のフィランソロピーでした。

正直、仕事とボランティアを両立させるのは簡単ではありませんでした。でも、今でも自分なりに優先順位を決めて、効率よく動くようにしています。テレビは20年以上見ていませんし、趣味も、仕事・家族・社会貢献を大事にできるものを選んでいます。
こういう価値観は、教師だった両親から自然と受け継いだものだと思っています。小さいころから「困っている人を助けるのは大切なこと」と、自然に教えられてきました。

その後、フィランソロピーを本格化させた最初の取り組みはなんでしたか?

アジア・アフリカの子ども達の教育支援を通じて、少額でも子どもの未来を変えられると確信

2007年には、より本格的にフィランソロピーに力を入れるようになりました。最初に支援した団体のひとつが、NPO法人「ルーム・トゥ・リード」でした。アジアやアフリカで、子どもたちに識字教育や女子教育のプログラムを提供している団体です。

この活動を知って、これは本当に意味のあることだと思いました。というのも、比較的少ない資金でも、南アジアやアフリカをはじめとする地域の子どもたちー男の子も女の子も─が学校に通えるようになるんです。もし私たちがサポートしなければ、そもそも教育を受ける機会すらなかったかもしれない。そう考えると、支援は子どもたちだけではなく、家族や地域全体にとっても大きな力になると実感しました。

実際、ベトナムの現地プロジェクトを訪れたとき、子どもたちの目がキラキラ輝いていて、「もっと応援したい」という気持ちが、さらに強くなりました。

次に、気候変動へ活動を広げていった背景を教えてください。

地球温暖化への危機感が高まり、直接的な解決策を探す中での MEERとの出会い 

2007年ごろまでに、地球温暖化への意識がだんだん強くなってきました。
もともと環境問題には関心はあったのですが、正直、最初の頃はそこまで深刻に考えていませんでした。

でも、いろんなことを学ぶうちに、これは想像以上に深刻で、 しかも、今のままだとさらに悪化する可能性がある。そう思ったときに、「これはもう、自分も関わっていかなきゃいけない」と感じたんです。

パリ協定で掲げられている目標すら、達成が危うい。むしろ、それをはるかに超えるスピードで気温が上がってしまうかもしれない。もしそうなれば、影響は計り知れません。

じゃあ、自分に何ができるか。気候変動に対して、もっと直接的で実効性のあるアプローチを探していたときに、「MEER(Mirror Enhanced Energy Reflection ミラーによって強化されたエネルギー反射) 」という取り組みに出会いました。

MEERについて教えてください。

再生アルミとプラの反射パネルで太陽光を跳ね返し、屋内温度を最大7℃下げるパッシブ・クーリング(受動的冷却)のアプローチ

MEERは、元ハーバード大学研究者のイェ・タオ博士が設立した非営利団体です。彼らが取り組んでいるのは、「受動的冷却」と呼ばれる方法で、簡単に言うと、太陽の光が地表を温める前に、反射材―ミラーのような素材―を使って宇宙空間に跳ね返してしまう、という仕組みです。とてもシンプルで、現場で即座に効果を発揮できる点が特徴です。
シエラレオネでは室内温度を最大7℃下げられることを実証しました。今はこれをスケールさせる段階。いかに安く、完全リサイクルで、理想的には現地生産し、短時間で組み立てられるかが鍵です。



シエラレオネで屋根に反射板を設置する様子


上からみたMEERの反射板

MEERでは、リサイクルアルミと再生プラスチックを使って、安価で環境負荷の少ないミラーを作っています。現地での調達・製造を基本にしていて、地域経済の活性化にもつながっています。
用途は大きく3つあります。1つ目は都市部の屋根に設置することで、室温を最大7℃下げられる。2つ目は貯水池に浮かべて、蒸発を最大90%抑える。3つ目は農地に設置して作物や土壌を日差しから守るもので、現在、開発中です。
まだスタートアップですが、気候変動の影響を受けやすい地域に即効性のある手段を届けるという点で、注目されています。

寄付や投資を判断する際の基準を教えてください。

「大きなインパクト」と「自身の価値観やリソースとの合致」

私がフィランソロピーやインパクト投資で支援先を選ぶときには、だいたい2つの軸で考えています。

ひとつは、大きなインパクトがあるかどうか。
たとえば、教育や地球温暖化のようなテーマで、少額の資金でも本当に意味のある変化を生み出せるか。「Room to Read」の活動に惹かれたのも、まさにその点でした。

もうひとつは、自分の価値観とリソース(資金や時間)がどれだけフィットしているか。
以前は、医療や環境といった分野で、リスクの高い投資もやっていました。大きな変化を生む可能性があるなら、挑戦する価値があると考えていたんです。しかし、MEER の可能性に手応えを感じてからはリスクの高い投資を控え、資金と時間をこの冷却技術に集中させています。

その他には、どんな分野にインパクト投資を行っていますか?

医療や民主主義の分野など。社会の根幹を支える「インフラ」の強化が大切

割と安定した分野にも取り組んでいます。 たとえばナイロビでは、年収が数千ドル程度の人たちを対象に、診察料が数ドルであるが、きちんと採算が取れる診療所の運営です。こういう仕組みは、本当に意義があると思います。「Tonic」というインパクト投資のネットワークを通じて見つけました。アメリカ国内では、選挙制度改革にも関心があり、たとえばランクド・チョイス投票の導入や、有権者の権利を守る活動をしている非営利団体も支援しています。

これらは、社会の根幹を支える「インフラ」を強化するという意味で、すごく大事な領域だと思っています。

今後の活動について教えてください。

MEERの活動を最優先に、引き続き教育・医療・民主主義の取り組みを支援

MEERはまだ本当に始まったばかりの組織です。組織をゼロからつくるのは簡単じゃないし、特に資金がなかなか入ってこない非営利だと、なおさら大変です。でも、それでもやる価値があると信じています。

上野で家族に食料を配る活動も、南アジアの子どもたちに教育を届けることも、アフリカの家の屋根に太陽光を反射させることも、根っこにある思いは同じです。

「本当に必要としている場所に、持続的な恩恵をもたらすこと」
そのために自分ができることを、これからも続けていきたいと思っています。

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