KNOWLEDGE

ブログ

【現地レポート】シンガポール・ファミリービジネス向けプログラム ACC/CHIEF

今回、私小柴は、ACC(Asia Centre for Changemakers)というアジアにおける社会変革を担う人材の育成と能力開発を目的としたプログラムの一つである「CHIEF(The Changemaker Impact Endeavour Fellowship)」に参加しました。

CHIEFには3つのモジュールがあり、私が参加したモジュール1では、「ファミリービジネスの社会性を、より高める方法」について、講師の話を聞いたり、参加者同士でディスカッションを重ねたりしながら、認識を深めました。

このCHIEFは今回が第一期目のプログラムであり、ウェルスマネジメントやフィランソロピーをテーマに、高名な講師陣や多様な参加者とともに、体系的かつ実践的に学べるアジアでも新しい試みです。最新の知見や情報をもとに、これからのファミリービジネスやフィランソロピーについて考えを深めることができた、非常に学びの多い機会となりました。

※ACC/CHIEFとは
ACC(Asia Centre for Changemakers)は、ウェルスマネジメント研究所(WMI)が主催するプログラムで、アジアにおける社会変革を担う人材の育成と能力開発を目的としています。
また、フィランソロピーやインパクト資本に関する最先端の学びの場として、家族経営者(ファミリー)、専門職、アドバイザー、ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)などを対象に、業界における学習の深化を支援しています。

(出典:CHIEF

シンガポールで開催する意味

シンガポールは、ウェルスマネジメントやフィランソロピーに国全体で力を入れており、税制優遇措置などを通じて、世界中からファミリーオフィスを集めています。

今回私が参加した目的の一つは、
「世界の資産家たちは今、何を考えているのか」
「どのような課題を抱え、何が上手くいっているのか」
「これからフィランソロピーやインパクト投資を始めようとしている人たちは、どんな想いを持っているのか」
といったことを、自分の目で見て学ぶためでした。

国際的なウェルスマネジメント/フィランソロピーのハブであるシンガポールは、日本に比べてこの分野で先行しています。そのため、「今シンガポールで起こっていることは、5年〜10年後には日本でも起こり得るのではないか」という仮説のもと、早い段階で我々のお客様に価値を提供したいという想いから、本プログラムに参加しました。

シンガポールは2回目ですが、マーライオンを見たのは初めてでした!

世界共通のファミリーオフィスが抱える課題

プログラムを通じて改めて実感したのは「ファミリーの資産とフィランソロピーは切っても切れない関係にある」ということでした。

ファミリーがどのような経験をしてきたかと、どのような社会貢献をしたいのかは、密接に結びついています。
したがって、ファミリーが迷った時に立ち返るべき本質的な問い――「自分たちの原点は何か」「何を大切にしているのか」――が極めて重要であると再認識しました。

一方で、マルチファミリーオフィスが多く存在するシンガポールにおいても、フィランソロピーの手法に関しては、十分なサービスが提供できていない現状があることも分かりました。
この傾向はアメリカでも同様で、たとえば、ファミリーが財団を運営してフィランソロピーを実践しようとする際、目的意識の共有が難しく、家族内での対立に発展するケースも少なくありません。
さらに、ファミリーオフィスにとって重要な任務のひとつが「ファミリー資産を減らさないこと」であるため、フィランソロピーのように「あれば良いが、なくても困らない活動」は優先順位が下がりがちです。ファミリーオフィス内で資産の維持と社会貢献を両立させることの難しさは、シンガポールでも実感されている課題でした。

世界中のファミリーが共通して悩んでいるのは、「ファミリーのパーパスをどう定めるか」という点ですが、その本質に立ち返る手段として、フィランソロピーに取り組むことは非常に有効だと感じています。
私たちフィランソロピー・アドバイザーズ(株)としても、世界の事例を数多く伝えることで、お客様が「自分たちのパーパス」を見定めるための一助となれればと思っています。


講義のワンシーン。基本インタラクティブな形式で、みんな発言が止まらない!

「CHIEF」プログラム モジュール1での試み

私が参加したモジュール1では、「ネクストジェン(次世代のファミリーメンバー)」と「起業家」という、異なる立場の人々をあえて混ぜるという興味深い構成が取られていました。というのも、これまでネクストジェン特有のセンシティブな悩み(家族関係など)が外部に共有されることは少なかったからです。しかし、異なる属性の人々がオープンに話し合うことで、新しい視点や気づきを得ることができたように思います。

また、「資金提供者だけでなく、受給者にもトレーニングが必要である」という話も非常に印象的でした。
受給者にとって、提供者の思考や判断基準を理解するのは難しく、反対に提供者も、適切な支援方法やタイミングを学ばなければ価値ある支援はできません。

今回のプログラムでは、提供者と受給者が同じ場に集い、直接対話できたことが大きな価値につながったと感じました。

さらに、非営利出身の人材をファミリーオフィスに雇用した際によく起こる問題についても共有されました。たとえば、資金が限られた環境で活動してきた人が、突然資金提供側に回ることで、「自分がこの資金を仕切るんだ!」と誤解し、熱意が先走ってしまうケースがあるそうです。
本来であれば、ファミリーオフィスの一員として、“ファミリーの満足感”も考慮しなければならないはずですが、「社会のために良いことを」という熱い想いが先走って、俯瞰した目線で物事を見ることができない例が少なからずあるという話のシェアでした。

私たちフィランソロピー・アドバイザーズ(株)でも、お客様のために人材採用を支援することがあります。そのため、「熱意」と「冷静な視点」の両方を持ち合わせた人材の重要性を、改めて実感しました。

講師 Jed Emersonさんが提唱した問い


(出典:CHIEF

今回の講師のひとりであるJed Emersonさんの言葉も深く心に残りました。
彼はインパクト投資やサステナブル投資における国際的な思想的リーダーであり、多くの論文や著書を通じて業界を牽引してきた人物です。

著書『The Purpose of Capital』では、

「お金を使う人の目的が明確でなければ、そのお金の価値は発揮されないのではないか?」
「あなたの人生の目的は何ですか?」
という本質的な問いを投げかけ、世界的な注目を集めました。

彼が
「社会に良いことと経済的成功は相反するもの」という二極的な価値観がこれまで世界を支配してきたが、実際にはその間には多くのグラデーションがあるという前提で、世界を捉え直すべきだ、という考え方を強調した上で、
「良いか悪いかではなくて、あなたが持っているすべてのリソースを使えば、何かしらの良いことは必ずできるから、どのようにリソースを使うかを考えましょう」と言っていたのが、非常に印象的でした。
彼は世界中の歴史についても勉強しているので、アジア特有の「中庸」のような価値観も取り入れて、経済について大局的に考えているのだと思います。

【お知らせ】

2025年10月にJed Emersonさんが来日するタイミングに合わせて、東京で10/31(金)の午後に、彼を招いたイベントを開催します。次世代ファミリーメンバー及び起業家の方々をご招待し、世界のフィランソロピーの動向やPurpose of Capitalについて考えるセッションとなります。

まとめ

第一期目であるACCの「CHIEF」に参加したことで、世界中から集まった参加者と意見交換したり業界を牽引する講師の方の話を直に聞いたりすることができ、世界のファミリーオフィスの現状やフィランソロピーの立ち位置について改めて知ることができました。

また、ファミリービジネスに関わる方々や社会起業家の方など、多様な立場の人々と本音で語り合えたことで、それぞれの視点や考え方についても学ぶことができました。

シンガポールというアジアでの業界最先端の雰囲気や世界のスタンダードを掴むことで、流動的な世界の状況とこれから向かうであろう方向性を再認識したので、今後の日本での実践にもぜひ活かしていきたいと考えています。


参加者のみんなと。


Co-CEO:小柴優子

KNOWLEDGEトップに戻る

  • なぜ今、「インパクト評価」が求められているのか
    ブログ

    なぜ今、「インパクト評価」が求められているのか

    • 国内フィランソロピー事情
  • 冨田和成さん 誰もが全力で挑戦できる社会へ──金融の知見と利他の精神で拓く、新たな仕組み
    ブログ

    冨田和成さん 誰もが全力で挑戦できる社会へ──金融の知見と利他の精神で拓く、新たな仕組み

    • フィランソロピスト紹介
    • 国内フィランソロピー事情

TOP