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本シリーズは、内閣府 公益認定等委員会事務局で、公益認定申請を担当する伊藤憲一氏によるブログです。
数多くの日本の財団法人と向き合ってきた立場から、氏が日々の業務の中で感じたことをお届けします。
伊藤氏寄稿連載 第1回:事業報告の前に「戦略」を。なぜ、善意は詰みあがっていかないのか?は、こちら
前回は、善意と誠実さだけでは埋まりきらない「何か」について問題提起を行いました。今回はその違和感の正体をより具体的に、「多くの公益法人が長年取り組んできた事業の中で、何が起きているのか」という視点から掘り下げます。
本連載では、このような問いを起点に、今ある活動を否定することなく、「社会をどう変えていくか」という戦略へとつなげていきます。
公益法人を設立するきっかけは、人それぞれです。
「税制の優遇を活かしたい」「手元にある資金を世の中に役立てたい」——こうした動機は、決して後ろめたいものではありません。
制度が用意したインセンティブを賢く活用し、その結果として、
・学びを諦めずに済む学生が増える
・最先端の研究が前に進む
・困難に直面している人の支えになる
これらは間違いなく、社会にとって不可欠で尊い営みです。また、何十年も変わらずに支援を届ける継続力は、それ自体が誇るべき実績であり、事務局の皆様の並々ならぬご尽力の賜物です。この連載は、その尊い積み上げを否定するものでは決してありません。
しかし、現場で真摯に活動を続けているからこそ、ふとした瞬間にこんな思いがよぎることはないでしょうか。
「20年前と比べて、この課題は本当に小さくなっているだろうか」
「毎年多くの申請が来る。それは、助けを必要とする人が減っていない証ではないか」
「個別の支援はできているが、根本的な解決に近づいている実感がない」
これは、活動が不足しているから感じるのではありません。むしろ、「目の前の人を救うこと」に全力で向き合ってきたからこそ見えてくる、極めて誠実な問いなのです。
その違和感の根底にあるのは、「支援のその先、社会をどう変えたいのか」という、もう一段深い視点への招待状かもしれません。
奨学金や助成金は、主に「今、そこにある困りごと」を和らげる大切な役割を担っています。
・学費が足りない → 今、支払うことができ、学びを継続できる
・研究費が足りない → 今年、研究を止めることなく進められる
・運営資金が苦しい団体 → 今、活動を止めることなく継続できる
これらは極めて重要です。一方で、こうした支援は、「なぜその困りごとが生まれているのか」という構造そのものに働きかけるものとは、異なる性格も持っています。
例えば、
・給付を行う → しかしなぜ困窮が生まれるのかは変わらない
・毎年選考する → 対象となる人そのものは減らない
という状況が続くことも少なくありません。
ある奨学金財団では、従来の給付型支援に加えて、奨学生同士のネットワーク形成やキャリア支援に取り組み始めました。
その結果、「目の前の学費を支える」という役割にとどまらず、「将来の選択肢を広げる」という中長期的な変化を意識した事業設計へと変わりつつあります。
同じ奨学金という枠組みでも、目的の置き方によって、その意味合いは大きく変わり得るのです。

ここでお伝えしたいのは、「今の事業を変えるべき」ということではありません。大切なのは、その事業が社会の中で「どんな役割」を果たしているのかを、改めて言葉にしてみることです。
次のような問いに向き合ってみることが出発点になります。
・直近3年で、支援対象となる人の数は増えているか、減っているか
・その理由を、自分たちの言葉で説明できるか
・この事業が「役目を果たした」と言える状態を描けるか
・変えたいのは「個人の状況」か、それとも「社会の仕組み(構造)」か?
前回提示した「違和感」が“存在している”という認識だとすれば、今回見えてきたのは、それが「支援の役割と目的の捉え方」から生まれている可能性です。
答えは、今の事業の延長線上にあります。 大切なのは、その意味を「社会変化の視点」で捉え直すことです。
例えば「奨学金」を、
・奨学金は、「一時的な支援」なのか
・それとも「教育格差という構造への介入」なのか
「助成事業」を、
・助成は、「活動支援」なのか
・それとも「新しい社会モデルの実験」なのか
目指す目的地によって、同じ事業でも、明日からの戦略は大きく変わります。
次回は、この「目的地の違い」が、実際の事業設計や意思決定にどのような変化をもたらすのか、もう一歩踏み込んで考えていきます。
伊藤 憲一 (公益認定等委員会 事務局 公益法人行政担当室)
2011年4月から2014年3月まで、また2019年7月から現在まで、内閣府公益認定等委員会事務局に在籍し、通算約10年にわたり公益法人制度に関わる業務に携わってきました。2025年3月までは、公益法人の定期提出書類の確認や変更認定、立入検査を中心に担当し、同年4月からは新規認定総括として、公益認定申請に特化した業務を担っています。
伊藤氏とPA Inc. Co-CEO藤田の対談記事 【連載】『都市伝説』の真相に迫る③ は、こちら
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