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本シリーズは、内閣府 公益認定等委員会事務局で、公益認定申請を担当する伊藤憲一氏によるブログです。
数多くの日本の財団法人と向き合ってきた立場から、氏が日々の業務の中で感じたことをお届けします。
伊藤氏寄稿連載 第2回:その「尊い活動」を、さらに「社会を変える力」へは、こちら
前回は、「同じ事業であっても、どこを目的地とするかによって、その意味は大きく変わる」という点について整理しました。
今回は、その違いが単なる理念にとどまらず、実際の事業設計や日々の意思決定にどのように現れてくるのかを見ていきます。
結論から言えば、「目的地の違い」は、
何に資源を投じ、誰を選び、どの成果を良しとするかにまで、静かに、しかし決定的に表れてきます。
例えば奨学金事業を考えてみましょう。
一見同じ「奨学金」であっても、何を目的とするかによって、その設計は大きく変わります。
①「今の困りごとを和らげる」ことを主目的とする場合
この場合の設計の軸は比較的明確です。いかに公平に、必要としている人に、確実に届けるかが中心になります。
・選考基準:現在の経済状況を重視する
・給付額:学費や生活費を補える水準
・成果指標:支援人数、継続率
・運営の重点:公平性・効率性
ここでは、「支援が確実に届くこと」そのものが価値になります。
例えば、長年奨学金の額を据え置いたまま事業を続けてきた公益財団法人があったとします。
当初は学費を十分にカバーできる水準でしたが、物価や生活コストの変化により、次第に実質的な支援効果は低下していました。
そこで同財団は、奨学生や応募者へのヒアリングを行い、現在の学生が直面している課題を改めて把握しました。
その結果、奨学金の増額に加え、生活面の支援や、より早い段階でのサポートの必要性が明らかとなり、新たに高校生向けの支援プログラムを立ち上げ、受験費用や大学の入学金、教科書代などの費用を支援することとしました。
このケースでは、「いま困っている人に確実に届ける」という目的に立ち返ることで、事業の設計そのものが見直されています。
②「社会の構造に働きかける」ことを目的とする場合
一方で、「教育格差そのものに変化を生みたい」と考えると、設計の考え方は大きく変わります。
ここで言う「変化」とは、特定の個人を支援することにとどまらず、
同じような背景を持つ人たちの進路の可能性が広がっていく状態をつくることです。
その場合、
・選考基準:将来的な影響力や背景を含めた多面的評価
・提供内容:給付+伴走支援・ネットワーク形成
・成果指標:進路の多様性、社会的波及、長期的成果
・運営の重点:関係性の構築、継続的な関与
といった設計になります。
単に奨学金を給付するのではなく、卒業生同士のネットワークづくりやキャリア支援を組み合わせたプログラムを運営している公益財団法人はいくつかあります。
これらの公益財団法人では、奨学生が将来、同じような境遇の後輩にとってのロールモデルとなり、進学や就業に関する情報や機会が連鎖的に広がっていく状況が生まれています。
この場合に問われるのは「何人に支給したか」ではなく、
「奨学金をきっかけに、どのような選択肢が社会に増えたか」という点です。

ここまで読まれて、こう感じる方もいるかもしれません。
「考え方は分かるが、そこまで踏み込んだ設計は現実的なのだろうか」
この問いはもっともです。
ただ、実際に複数年を前提とした支援や、新しい試みを段階的に導入する法人は、少しずつ増えてきています。
そして、この問いへの答えこそが、本連載のタイトルにある
「歴史上もっとも自由になった公益法人」という意味につながります。
昨年の制度見直しによって、公益法人の意思決定の前提は大きく変わりました。
かつては、
・単年度での収支均衡(いわゆる黒字消化)への強い意識
・毎年確実に配分することが前提
・事業の大きな変更は容易ではない
といった制約がありました。
しかし現在は、
・中期的収支均衡の考え方
→ 将来の成果に向けて資源を配分できる
・公益充実資金の創設
→ 複数事業を横断した戦略的な資金活用が可能
・事業変更の柔軟化
→ 社会状況に応じた見直しが可能
といった形で、前提が変わっています。
一言で言えば、
「将来の社会的リターン」に対して、中長期で投資してよい制度になった
ということです。
この変化は、単に「できることが増えた」という話ではありません。
むしろ重要なのは、
「なぜその事業が、どのように社会を変えるのか」を言語化する必要が生まれた
という点にあります。
ここで意味を持つのが、Theory of Change(ToC)やロジックモデルといった考え方です。
難しく見えるかもしれませんが、本質はシンプルです。
・この活動は、どんな変化を生むのか
・その変化は、どのように社会に届くのか
を整理するための道具にすぎません。
以前は、「適切に配っているか」が主な関心でした。
しかし今は、「どのような変化を設計しているか」までが問われる環境になっています。
こうした前提の変化は、日々の意思決定にも影響します。
たとえば、限られた予算の中で、
・支援人数を増やすか
・一人あたりの支援を厚くするか
という選択に直面したとき。
これは単なる配分の問題ではありません。
・多くの人に届けるのか
・一人ひとりの変化を深くするのか
という、「どこを目指しているか」の問題です。
どちらが正しいかではありません。
どの目的地を選んでいるかによって、合理的な答えが変わるのです。
そして今は、その選択を短期的な制約だけに縛られずに行える環境が整っています。

もう一つ重要なのが、評価の視点です。
例えば、
・支援人数が増えた
・応募数が増え続けている
といった事実は、一見すると成果に見えます。
しかし、これらの数字はそれだけでは評価できません。
「より多くの人に機会を届ける」ことが目的であれば前向きな成果ですが、
「そもそも支援が不要な状態を目指す」のであれば、
課題が解消されていない可能性を示しているとも捉えられます。
つまり、
・支援が広がっているのか
・それとも課題が解消されていないのか
は、目的地によって意味が変わります。
重要なのは、
・数字そのものではなく
・その数字をどう解釈する前提を持っているか
という点です。
ここまで見てきたように、現在の公益法人は、
・中長期で考え
・戦略的に資源を配分し
・社会的な変化を設計する
ことが制度的にも可能になっています。
だからこそ問われるのは、「新しい施策」そのものではなく、
・自分たちは何を減らしたいのか
・どんな状態を達成とみなすのか
・そのために今の事業はどこに位置づくのか
という、より根本的な問いです。
では実際に、こうした考え方を踏まえて、どのように今ある事業を見直していけばよいのでしょうか。
次回は、「現状の活動を起点に、無理なく“社会変化への設計”へと接続していく方法」について、具体的に考えていきます。
伊藤 憲一 (公益認定等委員会 事務局 公益法人行政担当室)
2011年4月から2014年3月まで、また2019年7月から現在まで、内閣府公益認定等委員会事務局に在籍し、通算約10年にわたり公益法人制度に関わる業務に携わってきました。2025年3月までは、公益法人の定期提出書類の確認や変更認定、立入検査を中心に担当し、同年4月からは新規認定総括として、公益認定申請に特化した業務を担っています。
伊藤氏とPA Inc. Co-CEO藤田の対談記事 【連載】『都市伝説』の真相に迫る③ は、こちら
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